
みなさんは、ラーニングピラミッドというものをご存知でしょうか?
一般的には、講義をただ聞いているだけよりも、人に教えた方が学習効果が高いというアクティブラーニングについての根拠資料として使われることが多いです。
ですが、根拠資料として使われているわりには、「ラーニングピラミッド自体信憑性がないんじゃないの?」という情報があったのでご紹介しておきます。
使うことがある人は、注意しておいた方が良いかもしれません。
ラーニングピラミッドとは?
ラーニングピラミッドとは、学習別に記憶に残る割合をピラミッド状になるよう図解したものになります。
学習別の記憶へ定着する割合はそれぞれ、
- 講義:5%
- 読書:10%
- 視聴覚:20%
- デモンストレーション:30%
- グループ討論:50%
- 自ら体験する:75%
- 人に教える:90%
となっており、講義をするだけの効果が1番低く、人に教える効果が1番高いというように、受動的な学習よりも能動的な学習が優れているといったアクティブラーニングが有効であるという根拠として用いられることが多いです。
出典:土屋耕治 ラーニングピラミッドの誤謬――モデルの変遷と“神話”の終焉へ向けて 人間関係研究(2018)
上記の図を見てみると、なんとなく正しそうに見えるのが実にやっかいですね。
ラーニングピラミッドは信憑性なし!
ラーニングピラミッドには疑わしい部分が多く、学習者のレベル、教師のレベル、学習環境など、複雑な関係が入り混じる中、学習効果を5%単位のきれいな数値で出すことが可能なのか気になるところです。
南山大学の土屋耕治によると、引用されている文献や出典元などを調査した結果、
- 各文献で記載内容が若干異なる
- 人に教えるというのは初期の文献(初期NTLモデル)に存在していない
- そもそも数値データを算出した研究データが存在していない
- 一番古い文献でも研究に基づくものではなく個人的な意見として書かれている
などの問題があることが判明したようです。
また、「記憶という観点からのみ数値を読みとけば、1時間他者に教えるという時間を持てば、それは9時間講義を聞くのと同等、という判断ができてしまうが、決してそのようなことはないだろう」という見解を述べております。
直観的に理解しやすい図のため、説明に使うのに便利なんでしょうが、信頼性の低い資料を紹介することのデメリットに比べると、使わない方が良さそうですね。
たまに、アクティブラーニングに関する本などでも、ラーニングピラミッドが紹介されていたりするので、残念なことにラーニングピラミッドを信じている人は多いと思われます。
アクティブラーニングの効果は?
ラーニングピラミッドに科学的根拠がないということは、「アクティブラーニングは効果が無いの?」という疑問が出てくると思います。
結論からいうと、アクティブラーニング自体には、効果があるようです。
ワシントン大学の研究によると、この後にテストがあると伝えられたグループと、この後に他の人に教えてもらうということを伝えたグループを比較すると、「他の人に教える必要があると伝えられていたグループの方が、正確に思い出す確率が28%高くなった」とのこと。
実際に教えなくても、教えることを意識するだけで、記憶の定着効果があるとは驚きです。
このように、ラーニングピラミッドは、根拠となる数値情報がないだけで、アクティブラーニングが有効であるという研究結果は多数あるようです。そのあたりは、一安心してもよろしいのではないでしょうか。
個人的にも、アクティブラーニングと呼ばれている、能動的な学習には賛成です。
まとめ
学習別により記憶力の定着を示すためのラーニングピラミッドには、科学的根拠が乏しいことを紹介しました。
根拠が乏しい資料を使うことは、その後伝える内容全ての信頼性がなくなるという大きなデメリットがあります。教育者など、人に教えることを仕事にしている方達には、ぜひとも気を付けてほしいところですね。
アクティブラーニングの有効性を伝えるには、別の研究事例なんかを示す方が良いかもしれません。
ラーニングピラミッドの資料を使う機会がある方は、くれぐれも取り扱いにご注意ください。
●参考文献
土屋耕治 ラーニングピラミッドの誤謬――モデルの変遷と“神話”の終焉へ向けて 人間関係研究(2018)
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